ハンセン病資料館でいま、何が起こっているか(3)

ハンセン病資料館問題

ハンセン病資料館の学芸員2名が内部告発、組合活動などを理由に不当解雇された。
4月10日付の赤旗に一報が出て、その件については以前のポストでも紹介したとおりである。

資料館の運営は毎年おこなわれる競争入札により、1年単位で受託運営者を決めるという方法が採られている。長年にわたる国によるハンセン病政策の誤りを周知すること、当事者の名誉回復、社会に於ける差別・排除をなくしていくための人権啓発、いずれも長期間にわたる展望、取り組みがなければ実現しえない内容だが、啓発を担う資料館職員の雇用は1年単位でしか保証されず、しかも正規職員という形にもなっていない。これは大いに問題があると思われる。

赤旗の記事では受託者が従来の日本財団から笹川保健財団に変更となるタイミングで、今まで一度も行われたことのなかった採用試験がおこなわれ、その結果、「資料館内でセクハラ、パワハラ、特定の職員排除、恫喝などが横行している」と内部告発をした学芸員2名が不採用になった、と紹介。2名が不採用となった理由については「回答しない。不採用となったのは2人のみではない」と笹川保健財団から回答があったそうで、前受託者であった日本財団は「雇用に責任を負う立場にない」「(ハラスメントについては)調査した結果、ハラスメントの事実の存在は確認できなかった」と述べているとの由。

記事の事実関係については前回の記事同様、記者会見の内容を参考にしていると思われるが、組合の公式ホームページでなかなか記者会見録が公開されなかった。年度末からひと月近く経つので公開はないのだろうかと思っていたところ、先週末の4月25日に会見録が公開されていた。記事へのリンクは以下。

https://hansensdignity.com/2020/04/25/2020年3月30日厚生労働省記者会見/

基本的な内容は3月9日の記者会見とほぼ変わりないのだが、パワハラ、セクハラの事実関係について、より詳しく語られている。詳しくは記事を読んでもらいたいのだが、端的に言って、じつにひどい。この状況下で内部告発に踏み切った3名の胆力は、並大抵のものではないと思われる。

記者会見記事は内容がひどく、かつ分量もかなり長いので、読み進むのが苦痛であるという人もおられるであろう。生の声を読んでもらうのが本来はよいのだが、何度も読むのは厳しい(読むだけでダメージを受ける、あるいは怒り心頭に発して血圧によくない)という人のために以下、いつものように事実関係を列挙する。

・組合分会長の稲葉氏に対する人権侵害が始まったのは2016年2月。人権侵害を止めるよう館長に何度か相談したが、「我慢するように」と言われるだけで何も対処はしてもらえなかった。
・1年後の2017年2月、日本財団内にあるハラスメント委員会に対して申し立てをおこなったが、委員会は結論を出さず、申し立てを放置。1年9ヶ月後の2018年11月に回答があったが、ゼロ回答。この間も人権侵害は継続。
・2018年3月、稲葉氏、学芸部長(当時)、事務局長の3名が追放人事を受ける。

・館長から元女性職員Aさんへのセクハラ行為が始まったのは2018年春。それまでも館長室で話を聞く際に手を握る、身体を触るなどの行為があったが、この頃から「マンツーマンで仕事をしよう」「新しい部門を新設するので、そこでひとりで研究に専念するように」と言われるようになる。
・申し出を断ったところ館長の態度が豹変し、パワハラが始まる。「他の学芸員は、あんたなんかと仕事をしたいと思っていない」「あんたは他の人から決して好かれていない」「誰があんたと仕事をしたいと思うか」といった発言のほか、全職員を前にした館長訓示でも「たとえ館長を辞めても、気に入らない学芸員を地方へ飛ばす」「私の意に沿うこと、気に入ることをしろ。学芸員なんて辞めてもいくらでも代わりはいるんだ」などの恫喝発言があった。
・2019年4月には館長のセクハラ、パワハラ問題についてヒアリングがおこなわれた。ヒアリングをおこなったのは厚労省難病対策課の課長、課長補佐、国立ハンセン病資料館運営委員会の委員である弁護士。ヒアリングに対する結果報告があったのは1年近く経った2020年2月になってからだったが、館長によるセクハラ、パワハラについての言及は一切なし。
・日本財団との団交の席で財団側より「他の職員に聞き取りをしたところ、館長のセクハラを見聞きした人はいない。逆に『Aさんが館長の身体を触っているのを見た』という声があった」との説明を受ける。(*館長があなたからのセクハラ被害に遭っていたのだ、という説明)

こうした経緯のあと、不当解雇がおこなわれたわけである。今後は地位確認、資料館への復職を求めて裁判でも闘っていくとのことだが、このあたりについては記者会見の後半部分、新聞記者との質疑応答を参照していだただきたい。

組合分会長を務める稲葉氏はハンセン病資料館ができた際、最初に学芸員として雇われた。勤務は18年に及び、稲葉氏しか知り得ない歴史、収蔵資料の詳細、人脈なども多いと聞く。記者会見録では、こんなことも語っている。どんな人柄の人物か、しばし思いを馳せていただきたいのである。

私がこの4年間、いくつもの人権侵害に耐えて資料館に勤め続けてきた理由は、ハンセン病回復者が必要だと思い、自ら作り出し、維持してきたハンセン病資料館の存在意義や価値を守ることが、あの資料館に勤める学芸員の使命だと考えてきたからです。世の中にはハンセン病問題への様々な関わり方があると思いますが、学芸員としての関わりかたというのは、まずもってハンセン病回復者からお預かりしている、あの資料館を守ることです。

関わった以上、それは私個人の欲求よりも、優先されるべきものだと思っています。私はこのことを体調不良や心ない声にも負けず、毎日毎日地道に資料館を支え続けた、故・佐川修さん(多磨全生園・元自治会長)の姿勢から学びました。佐川さんが守ってきた資料館を守る立場にもう一度戻ることを、私は強く希望しています。不当解雇を撤回させ、復職できるよう、みなさまのご支援、ご協力をお願いいたします。

これでも心ない人は「根拠のない誹謗中傷だ」「事実無根だ」と言うのだろうか。きっと言うのだろう。そういった発言をする人、組織は、かつてハンセン病患者を強制隔離し、無癩県運動を推進した大日本帝国および内務省、科学的根拠なく、らい予防法を改悪した厚生省(1953年改正当時)と同じ側に立つことを自覚すべきであると思う。無論、自覚があった上で「資料館運営に問題はない」と言い募っているのかもしれないが。

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