Profile
伊波敏男(いは・としお)さん……1943(昭和18)年、沖縄生まれ。作家・NPO法人クリオン虹の基金理事長・元長野大学客員教授。1997年、みずからの半生を綴った『花に逢はん』を出版、同年の第8回沖縄タイムス出版文化賞を受賞。『夏椿、そして』『ハンセン病を生きて ─きみたちに伝えたいこと』など著書多数。現在、沖縄在住。
基本的な私の意見として、歴史的な人権問題を国民に訴える国立ハンセン病資料館の施設で、働く学芸員の意思に反して解雇され、その不当性を争っているという事実に、最初、耳を疑い、私はこれらの経過情報に極めて異質感を覚えていました。
「資料館内でのハラスメント(一部)」に記載されている項目を拝見すると、そんなことが日常的に行われていたとは驚きを禁じ得ません。女性学芸員の方へのハラスメントについては、本人が不快と思う行為は、どんな小さな行為も許されないというのが今日の社会常識です。『セクハラ問題』は、今日、特に人権視点から被害を受けている人の認識が重要です。「ハラスメント一覧」と「不当解雇を支援する会」情報は、被害を受けた側からの情報であることを前提に、私の見解を申しあげます。解雇される最低限の条件は、社会的事件の当事者であるとか、お二人の働き方が会館の運営上、余程の損害を与えているとかを明示しなければなりません。今日、新型コロナの経済環境の悪化で、リストラとか雇い止め、内定取り消しとかが報じられていますが、それでも労働者の雇用を維持する努力と説明責任が求められます。
ある時期を境に会館内の共有情報から除外されていたということは、資料館の一体的・日常的な運営に支障をきたすものであり、一般的に評すれば、それは「いじめ」そのものです。対象者は精神的苦痛を受けていたものと想像されます。一部の学芸員の日常の勤務現場で、このような心理的圧力を与えながら、来館者に「国が犯した人権侵害の歴史」を語らせていたとは……。「人権」は過去の問題ではなく、最低限、今日の、国立ハンセン病資料館の日常の中で、担保されるべき課題です。
『誤記』『図書室職員からの苦情』『展示作品の入れ替え』等で示されている解雇理由は、資料館運営にとって、決定的な支障を与えるほどの問題のレベルだったとすれば、なぜ、その都度、管理者は注意と指示を与えなかったのか、これは、逆に管理者能力が問われる問題なのです。また、国立ハンセン病資料館の事業活動を縮小する状況ならば、一歩譲って学芸員の減員問題も検討事案になるのかも知れませんが、会館の事業縮小の情報については、一切、私は聞き及んでおりません。従って、余計に、特定の雇用者を狙い撃ちして解雇する蓋然性が見えてきません。その上、子供だましのような再試験を受けさせ、「試験の結果」で不採用を決定し、通告するというプロセスは、解雇理由のアリバイ作りとしか見えない姑息な手法です。このような前時代的な不当労働行為が、今日も存在していることに驚きを禁じ得ません。
最後に、継続勤務されている学芸員発行文書も読む機会がありました。掲載されている内容は、解雇対象者への批判の列記で、とても元同僚への言葉とは思えず、心を痛めてしまいました。私は古い時代の「労働者観」で語っているかも知れませんが、働く者は、どんな時でも、同僚の解雇には、手を携えて、経営者・理事者に立ち向かったものです。その労働倫理観からしても残念でなりません。
以上の理由から、私は、稲葉氏たちへの解雇は不当な扱いであると断定し、両人をすみやかに現職へ復帰させるよう要求いたします。
私は、賛同者の氏名表記を承諾いたします。
2020/06/23(慰霊の日・黙祷)
伊波敏男